TEXT-5




●焦点距離ってなんだろう
 
Click で拡大
【虫眼鏡(1枚の凸レンズ)の焦点距離】
蛍光灯がはっきりと見えるようになったレンズの位置と、テーブルまでの距離を焦点距離といいます。
 
  まずは、焦点距離とはなにかを整理していきましょう。
 昔、小学校で理科の時間に焦点の勉強をしましたよね。多くの場合、虫眼鏡を利用したのでは無いでしょうか。例えば、卓上ライトの蛍光灯の白いテーブルの間に虫眼鏡をかざします。このときには、白いテーブルにはなにも見えないのですが、テーブルに近づけたり、あるいは遠ざけたりしているうちに、蛍光灯がテーブルにハッキリと投射できるようになる位置を見つけられるようになります。像がハッキリと見えるようになる点ですから、この位置が焦点ということになります。そして、この焦点とテーブルまでの距離を焦点距離というのです。
  
●カメラレンズの焦点距離
 
Click で拡大
【カメラレンズの焦点距離】
虫眼鏡に比べて焦点距離が短いことが分かります。収差の対策が施されているので、虫眼鏡に比べて歪みなどが少なくなっているのが分かります。
 
 では、これをカメラレンズに当てはめてみましょう。
 カメラレンズでは、以前この連載でも紹介したとおり、複数の凸レンズや凹レンズを組み合わせてひとつの製品が作られます。さて、このような場合は、どことどこの長さをレンズの焦点距離というのでしょうか。カメラレンズのようにレンズが何枚も組み合わされている場合は、どことどこの距離なのか分かにくいですよね。このように複数のレンズを用いた場合の焦点距離は、主点と焦点の距離と決められています。主点とは、そのレンズに光を照射したときの屈折を元にして、レンズの中心だと考えられる点を指します。複数のレンズを1枚の仮想的なレンズがあると考えて、その焦点の位置が主点であると考えてよいでしょう。この考えかたを用いることによって、複数のレンズを組み合わせたカメラレンズは、1枚のレンズだとみなすことが可能になるというわけです。

 ここで重要なのは、主点というものは、物理的な中心ではなく光の屈折を基準にしていることです。虫眼鏡の場合は、凸レンズ1枚で構成されているため、レンズの断面の中心が主点となるわけですが、カメラレンズの主点は本来のレンズの中心とは異なった位置に主点があるのです。さらに、カメラレンズに対して前方から光を入射させたときと後方から光を入射させたときとで、主点の位置は異なってしまうのです。ちなみに、前方から入射させたときの主点を後側主点(第二主点)、後方から入射させたときの主点を前側主点(第一主点)といいます。カメラレンズの焦点距離とは、このうちの後側主点と焦点の距離を指しているのです。
 レンズの構成によっては、主点がレンズとレンズの間ではなく、外側に考えられるようなものもあります。つまり、複数のレンズを組み合わせることによって収差を補正できるだけでなく、焦点距離も調整できるようになるというわけです。これを利用すれば、焦点距離が長いカメラレンズや焦点距離が極端に短いカメラレンズを自在に作ることができるわけです。


【レンズの組み合わせによって焦点距離が違ってくる】
代表的なカメラレンズの構成タイプと焦点距離の関係です。
  (『体系的に学ぶ デジタルカメラのしくみ』) 
 
 カメラレンズの焦点距離は、fという記号で表されます。焦点距離が50mmならf=50mm、300mmならf=300mm、といった具合です。F値と同じ「エフ」ですが、まったく違うものですから混在しないようにしましょう。特に絞りの値は、レンズなどによってはf2.8のように小文字で記載してあることもあるので注意しましょう。
  
■焦点距離と画角
ひとつ前のページに戻るこのページのトップへ
●焦点距離は撮影できる範囲に影響を与える
 

 カメラレンズは、焦点距離の数値が大きくなるにしたがって遠くのものでも画面いっぱいに撮影できるようになりますが、一方で撮影できる範囲が小さくなってしまいます。これを、焦点距離によって撮影できる画角が決まってくるといいます。画角とは、鮮明な画像を写せる範囲を角度で表したものです。では、焦点距離と画角には、どのような関係があるのかを見てみましょう。

 カメラレンズで撮影できる範囲はまるくなっています。フィルムやCCDなどの撮像素子が四角になっているので、写真画像が四角くなっているだけです。この画像が鮮明な、丸い範囲をイメージサークルといいます。イメージサークルの半径をyとし、焦点距離をfとすると、両者には、以下の関係が成り立ちます。

y=f×tanθ

 ここで、フィルム式カメラで一般に使われる35mmフィルムに画像を写すことを例にとって考えてみましょう。35mmフィルムに撮影できる範囲は24mm×36mmです。このとき、24×36mmの対角線である43.2mmがイメージサークルであれば、写したい画像が、鮮明に撮影できる画角に収まります。したがって、先ほどの式におけるyは、その半分の21.6mmになります。このときのθを計算していけば、焦点距離(f)と画角(2θ)が計算できるわけです。


Click で拡大
【35mmフィルムに画像を写すことを前提とした場合の焦点距離と画角】
カメラレンズのメーカーによっては、この値ではなく、歪曲収差による画角の増減を考慮した数値を表記していることもあります。 (『体系的に学ぶ デジタルカメラのしくみ』)
 
 レンズの後側主点との画像を写す範囲が入る対角線の両端を結んだ角度を公称対角線画角といいます。レンズの画角を示すときは、通常、この公称対角線画角を指します。35mmフィルムに画像を写すことを前提とした場合、焦点距離と画角の関係は以下のようにな
ります。


Click で拡大
【35mmフィルムに画像を写すことを前提とした場合の焦点距離と画角】
カメラレンズのメーカーによっては、この値ではなく、歪曲収差による画角の増減を考慮した数値を表記していることもあります。 (『体系的に学ぶ デジタルカメラのしくみ』)
 

Click で拡大
【焦点距離と画角のイメージ】
公称対角線画角を主な焦点距離ごとにイラストにしてみると、写せる範囲が全く違ってくることに気がつきます。 (『体系的に学ぶ デジタルカメラのしくみ』)
 

 しかし、撮影の対象をなるべく大きく撮影したい場合、フィルム式カメラもデジタルカメラも、対角線方向に目一杯大きく写すのではなく、縦方向か横方向に目一杯大きく写す方が自然です。そこで、カメラレンズを製造しているメーカーでは、対角線に対する画角のほかに、水平方向36mmと垂直方向24mmに対する画角も併記されている場合もあります。

 カメラレンズの焦点距離を示すときには、多くの場合、この35mmフィルムに画像を写すときの焦点距離を用います。長い間、この数値をカメラの焦点距離として使用してきたために、デジタルカメラでは、実際の焦点距離の他に、この35mmフィルムに置き換えた焦点距離も併記することが一般的になっています。この35mmフィルムに置き換えた焦点距離を、35mmフィルム換算や銀塩換算と言います。

 新聞でスポーツイベントの結果を知らせる写真を見ながら、これは焦点距離が何mmのカメラレンズで撮影しているのかなぁ、なんて推測してみるのもおもしろいかもしれませんね。

>> 
  
関連記事

投稿がありません。
投稿がありません。